東京の端より愛をこめて

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WITH LOVE FROM THE EDGE OF TOKYO

GEZAN『狂 KLUE』

音楽はなんのために存在するのか?テンションを上げる、気持ちに寄り添ってもらう、ファッションとして聞く。人それぞれだろう。

 

オルタナティブバンド・GEZANのnewアルバムは音楽を「革命」のための存在と位置付けた。この世界に抵抗するための音楽(Rebel music)としてこの作品を作った。

かつてフランス革命で「ラ・マルセイエーズ」が時代に求められた歌となったように、この作品も2020年が必要としている歌なのではないか。

今年1月に世に放たれたこのアルバムは、奇しくも現在、災禍の真っただ中にある世界を映している。作品では「分断」「差別」「倫理」「アベ」「トランプ」「インターネットを信仰」「右と左」といった言葉が歌われている。

2020以前なら歌詞の中でのこれらの言葉に対してリアリティを感じないし、違和感を持っただろう。しかし、この数か月でそれらの言葉は存在感を強め、意識せざるを得ないものとなった。

それに相まってこのアルバムの存在感、意義は何倍にも膨らみ、今、この瞬間に絶対に聴くべき作品になった。

 

随所に挟まれるポエトリーリーディング、アルバムを通して一貫したBPM100、シームレスに繋がった楽曲たち、不穏な声、楽器。それらを越える歌詞の強さ。圧倒的に濃い。

 

前半

 

一曲目「狂」では不穏なトラックに載せてこんな言葉から始まる。

今、お前はどこでこの声を聴いている?

 この時点で普通のアルバムじゃないことがわかる。続いて「これはこれから始まる革命の注意事項」と放ち、「聴く者の倫理を破壊」、「毒を以て毒を制す」、挙句の果てに「停止ボタンを押し拒絶」する選択肢もあるとリスナーに投げかける。ここまで聞いたら止める選択肢などあるはずもない。そして究めつけは次のリリック。

前半ではこの世界の破綻の詳細と奮起を

後半では希望という概念について、反抗に対する再定義について

この世界の歪さを説き、どう生きるかを促す音楽である、という宣言だ。 

 

一曲目のおどろおどろしいビート、それに乗った部族の叫び声を引き継いで始まる二曲目「EXTACY」、BPMが200となり「壊れるべくして壊れた」といった耳を覆いたくなる言葉の波である三曲目「replicant」。ずっと流れ続ける叫び声やギターリフ、曲間の無いシームレスな展開。サイケデリック、パンク、宗教音楽などあらゆる音楽を飲み込む音像。

 

前半のピークは六曲目「Soul Material」だ。

見るべきものがあるから目は二つある

心だって必要だから君の胸にある

 ずっと投げかけられていた側のリスナーに当事者意識が芽生える。コロナ禍の中で誰もが必要と確信し始めている「信念」に目を向けるとともに、リスナーはこのアルバムの世界観が自分の世界だと実感するのだ。

ここまでが「この世界の破綻の詳細と奮起」である。そして七曲目「訓告」へとなだれ込む。

 

後半

七曲目「訓告」では「夕焼けっていうのがあったらしい」「仮想世界へ逃避」「人工知能の暴走」「インターネットは神様に」など現代を憐れむような詩を詠む。

九曲目「赤曜日」の歌詞を抜粋したのがこれ。

意識を破壊し、内側から歴史を書き換える

全ての構造をこの場所で破壊する

 

オレたちは今、変わらなければいけない

革命なんだよこれは 革命なんだよこれは

 

神さまを殺せ

権力を殺せ

組織を殺せ

GEZANを殺せ

正直、僕はこの言葉全てにに共感していない。しかし、GEZANというバンドの怒りや思い、魂の叫びを感じたし、音楽として発信する覚悟に敬意を示したい。

 

終盤

ここまでは「世界」への反抗だったり「東京」という街への失望など自分の上にある存在へと怒りをぶつけている。だが、終盤も終盤、11曲目「東京」からは「自分と愛する誰か」がテーマになる。

政治と言葉にしたとき

一番最初に浮かんだフェイス

アベやトランプその他諸々のダーティフェイス

ではなく

花を見て笑う好きな人の顔であるべきだから

 

「東京」言葉にした最初のイメージ

夢の墓場、ビルの墓石、曇天の空

そうじゃなくて

君と歩くいつもの帰り道であるべきだから

 小さな幸せを守るために怒り、泣き、喚く。その先で守りたいものは小さな幸せだと。圧倒的に不穏でおどろおどろしい世界観の中で咲く本当に美しい名曲である。

 

最後の最後の曲「I」で歌われている歌詞を紹介したい。

幸せになるそれがRebel(反抗)だよ

 一曲目で示された「反抗に対する再定義」の答えが「幸せになる」ことだ、そう彼らは結論付けたたのだろう。

不条理、気に食わないこと、矛盾、それら諸々に対する怒りをぶちまけ辿り着いた最強のカウンター、それが「幸せになること」であり、自分の世界を変える「革命」なのだ。

 

っていうのが僕の解釈だ。

 

社会が混乱する今だからこそ響くものがある。とはいえ20年後に聴いても響く普遍的なメッセージを秘めた名盤であることは間違いない。

 

怒りながら泣き、泣きながら祈り、祈りながら歌う彼らに惹かれた五月末だった。

 

狂(KLUE) [Explicit]