東京の端より愛をこめて

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「スパイダーマン:スパイダーバース」感想

僕の中でスパイダーマンの映画は少しだけ特別な意味合いを持っている。

アメイジングスパイダーマン2」当時、僕は中学1年生だった。ゲームや音楽など「自分はこれだ!」を見つけ始める時期。周りにヒーローを追いかける友達は少なかった。そんな中「アメスパ2」を鑑賞し、最後のシーンで完全に心を射抜かれた。「ヒーロー」として描かれるキャラクターを一生追う決意をした作品になったのだ。

MARVEL作品が爆発的な人気を博し始めた2016年ごろ、新しくできた友達と共にMARVEL世界へと乗り込んだスパイダーマンを応援した。その後「エンドゲーム」、「ファーフロムホーム」を受験の間を縫って見届け、これからのヒーロー界を引っ張るであろうピーター・パーカーへの期待を膨らませた。

 

そして気づいたらスパイダーバースを見るタイミングを完全に逃していた。

やっと時間を作れた。部屋を暗くし、一番大きいテレビに父のスピーカーを繋いで鑑賞。

 

 

本当に真っ当な「スパイダーマンのオリジン」が描かれていて最高でした。

 

スパイダーマン:スパイダーバース (字幕版)

スパイダーマン:スパイダーバース (字幕版)

  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

最高の脇役

「スパイダーバース」と銘打っているので、マイルズ含め6人のスパイダーマンが織りなす物語なのかな、と鑑賞前は考えていた。互いのすれ違いの末の協力、などが割とメインで繰り広げられるかな、と。

しかしいい意味で裏切られた。マイルズが主人公として存在し、周りのスパイダーマンはすでに成熟し、自分の役目などを見つけている状態。マイルズの成長のための最高の舞台装置として物語に配置されているのだ。別の世界線スパイダーマン達の掘り下げ具合、物語における露出度がこれ以上ないぐらいに最高のバランスだと感じた。メイおばさんもかっこいいし。

 

マイルズの物語

この物語は「主人公がヒーローになるまで」というオリジンをしっかりと描き切っている。「主人公の持つ鬱屈を見せ、ふとしたことで力を得るもうまく使いこなせず、失敗してしまう。しかしあることをきっかけとして覚醒、悪を倒す」というプロット。

とくにスパイダーマンシリーズでは「力=責任」と一貫したテーマがあり、その「責任」は身近な者の死として描かれることが多い。このスパイダーバースにおいても、叔父が敵であるという今まで見たことのない(僕が知らないだけ?)設定を加えながら、やはり叔父の死をきっかけにマイルズの覚醒へのストーリーが加速していく。

また、マイルズが未だ学生であるからこそ生み出された「スパイダーバース」における特異な要素も見受けられた。それが「期待」である。家族の期待に対して感謝している部分もあるがうんざりもしている。ブルックリンの壁に描いたのは「大いなる誤算」という文字。ヒーローの力を手にし、亡くなったスパイダーマン、ほかの世界線スパイダーマンらから世界を救える可能性を提示されるも自分は力不足。

そんな期待に応えようとするもうまくいかない、思春期特有の感情をしっかりと描く。そして叔父の死、B・パーカーの「跳ぶんだ」という言葉を受けたマイルズは覚悟を決め、覚醒する。今までのスパイダーマンシリーズでも描かれた「NYの空中滑空」を超弩級映像でこれでもかと描写し、「新なたスパイダーマンの誕生」を観客に刻み付ける。

ベタといえばベタだが、ものすごく興奮する展開であるのは確かだし、映像美とともに「最高!!!」と思う他なくなるのだ。

 

ほどけていく糸

平野啓一郎氏の提唱した「分人」という考え方がある。自分の中にはそれぞれが性格を持つ「分人」が存在し、それぞれが紛れもなく「自分」だ、結局僕もあなたも「分人」の集合体だよ、だから人によって接し方が変わるのは当然ですよ、という考え方だ。

 

 マイルズはただの子供でもあるしスパイダーマンでもある。父はマイルズを愛しているが、スパイダーマンのことは忌み嫌っている。叔父ももちろんマイルズが好きだが、それと同時にキングスピンの手下としてスパイダーマン=マイルズを狙う。この主要な3人がそれぞれ「分人」を抱え互いの「分人」同士が糸のように絡み合っている。

マイルズは追ってくる怪人と対峙するも、その正体は愛し愛された叔父である。おまけに目の前で殺されごちゃごちゃとした感情に襲われる。それでもマイルズはB・パーカーや父の言葉により覚醒。スパイダーマンの戦いを見た父も思わず応援。「分人」同士の糸が徐々にほどけていくカタルシスにやられました。

 

映像

2000字も語っておいてあまり映像に触れないのもどうかと思う。でも劇場で観ておらず、大画面で味わえていないのでそこまでのことを言える立場じゃないです。

 

結局

★★★★★。覚醒したときのカタルシスを今までのどのスパイダーマンよりも感じた。主人公の思春期特有の感じ、キャラの配置の巧みさ、音楽に映像など、物語として洗練されていて完璧に近いと思います。続編も楽しみ。

 

 

 

 

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